【完】恋愛モノポリスト
「…りょーた?」
不意を突いて呼ばれた声にビクリと肩が震えた。
振り返りたくない。
だけど、そこには今一番逢いたいと思う人がいるから…。
「なな…?」
「……なに?なんで、先生と一緒なの?」
久し振りに聞いた声。
もう、二度と聞けないと思っていた、声。
「…あ、あぁ…ちょっと調子悪くなっちゃって…」
「…そう…じゃ、…また、ね」
「…っ…うん。…また……」
逸らされた視線。
それでも、また、と言ってもらえた事が死ぬ程嬉しいのに。
今は辛くて苦しくて、俺に背を向けるななを抱き締めて堪らないのに。
「また」が果たしてあるかどうか、今は分からない。
「なな…?」
「…なに?」
「………ありがと、な」
それだけ言うと、ななの返事を待たずに俺は先生に目配せをして一緒に家の中へ入った。
がちゃん、とドアを閉めると先生が確かめるかのような口調でこう言って来た。
「…お前、あれでよかったのか?」
「はい…どうしても、あれじゃなきゃ、ダメだったんです…」
「そうか。…だったら、もう俺は何も言わないよ」
ぽん
先生は俺の頭を撫でて、それから俺が荷物を作るのを待って、また空港まで送ってくれた。
家を出た時、またななに逢ったらどうしようかと考えたけれど、それはおばさんがなんとかしてくれると思い直して、割り切った。