純な、恋。そして、愛でした。
だって、こんなに泣きそうなのに、胸が悴んでいる。身体が弱っているからか、心も脆くなっているようだ。
私は他の人より冷めている。温かい心を持っていない。友達と笑っていても、時々自分の心の温度にびっくりするぐらい冷えていることに気がついて意識が遠くなる。
笑っているのに、反比例して、心がどんどん冷めていくんだ。
その感覚が孤独感だと気がついたのは、最近になってからだ。
大人数でいても、そばに彼氏や楓がいても、私は孤独を感じていた。
心にできた穴、そこがブラックホールのように渦巻いていて、冷気を纏いながら温度を奪っている。感覚的にいうと、そんな感じだった。
そんな私が今、命をお腹に宿している。自分のものとは別に、まだ映像でも小さな丸で、人の形はしていないが、でも間違いなく命だ。私となんら変わらない、命だ。
しかしだからこそどうしたら良いのかわからない。命が大切なのは当たり前にみんなが知っている道徳。誰もが教えられる常識。意識しなくとも心得ていることだろう。
若くして亡くなった父もきっとまだまだ生きたかったに違いない。
私も生きていて欲しかったとそう思う。
でも大病は容赦なく父の命を奪った。
生きたくても生きられない命があるのも知っている。
だけど私はこの命を、胸を張って大事にできない。
産んで、ひとりで育てる技量が自分にあるとは到底思えないからだ。
どうしたら大事に、大切にできるかわからない。
恋も愛も知らない、未熟者の私が何ヶ月後には子供を産んで育てている未来は想像できない。
暗闇の中、知らない土地に置き去りにされているみたいに八方塞がり。
全て自分が招いたことだけれど、苦しくてしょうがない。
「志乃」
「楓……」
「大丈夫? なんかあった?」
昼休み、いつものように楓がお弁当を持ってやって来た。
表情はどことなく、こちらの様子を伺っているように見える。
授業と授業の間の休みは私をそっとしておくような素振りで、近づいて来なかった楓。それが彼女なりの思いやりなのは理解している。
「大丈夫。気分が悪いだけだから」
「それだけ? ここんとこずっとそうじゃない?」
「うん。でもただの風邪だと思うから」
「そう……なら、いいんだけど……」
心配してくれているのが伝わってくる。本当のことが言えなくて心苦しい。けれど言う勇気はまだ、ない。楓のこと、友だちだと思っているからこそ、言えないのだ。