純な、恋。そして、愛でした。
嫌われたくない。その想いだけが先行して言い出せない。
もし妊娠したことを打ち明けて、後に産む決断をできなかったら、きっと私は……。
楓の友達じゃいられなくなるだろう。
「ねえ、志乃ダイエットでもしてるの?」
「え?」
「フルーツだけとか、私だったら絶対身体がもたん」
私が取り出したタッパの中身を見ながら楓が大袈裟に身悶える。
「ふふふ、そんなことないよ、マイブームなんだ、フルーツ。あ、いる? 美味しいよ?」
「いやいい。貴重な志乃のカロリー奪えないから」
なんだそれ、貴重なカロリーなんて、世の女性たはきっとそんな言葉の組み合わせは使わないだろう。むしろカロリーは敵だ。貴重だなんて考えつかない。
思わず蓄えていた息を吐き出すと笑った。堪えろと言われたら腹筋が崩壊しかねない。そのぐらいドツボにはまった。
「ははは、楓おもしろすぎだしっ」
「ふふ、志乃は笑いすぎ」
そう言われたところで一度はまったツボは外れない。しばらく笑ったあと、目尻に溜まった涙を指先で掬った。あー、お腹痛い。
具合は相変わらず悪かったのだけど、楓の話はおもしろくて時間はあっという間に過ぎていった。
チャイムが鳴り、午後の授業が始まった。持って来ていたフルーツはほとんど食べることができなかった。
お腹いっぱいになったあとの授業は気怠いからか、クラスを包む空気もどことなく緩く、だらしない。
黒板と教科書とノート、それから窓の外を交互に見ながら午後の授業は消化した。最後あたりはほとんど窓からの景色に没頭していたけれど。
「今配ったのは進路調査についてのプリントだ。もうそろそろ真剣に考えておけよ」
帰りのホームルームで配られたプリント。前の席の男子から渡されたそれを後ろの黒野くんに手渡した。目が合いそうになったところで前方に翻す。
胸もと辺りがざわついた気がして落ち着かなかったから、怪しい行動になってしまったかもしれない。
自分でも今の態度はおかしく思ったし、自身のことなのに理解できなかった。
なんでこんなに動揺しているのだろう。プリントを回すぐらいで、バカらしい。
先生の話も順調に進み、日直の号令で放課後になった。静かだった教室がいっきに脱力した雰囲気に様変わり。
「志乃、今日こそは遊ぶでしょ?」
「ごめん、今日は彼氏んとこ行くんだ」
楓の誘いに顔の前に手を合わせた。
「そっか……わかった、また明日ね」