純な、恋。そして、愛でした。
残念そうに顔をしかめる楓に「ほんとごめん」と言ってさよならした。
そう、今日こそ言わなくちゃと思っていた。まずは当事者である彼氏に告げないと話にならない。
学校が終わったら行くと、メッセージを送っておいた。
返事はなかったのだけれど、これから向かう。
いなくても、帰ってくるまで待っていよう。
ようやく絞り出した勇気がなくならないためにも、今日進展させねばならない。
「……っ……」
帰り支度を済ませてさあ行こうと立ち上がった瞬間、目眩がして動けなくなった。
テレビの砂嵐のようなものが目を閉じていても蠢いている。気持ち悪い。
まだクラスメイトがいる教室で、こんなの、ダメだ。心配されたくない。
その一心でふらつきそうになりながら廊下へ出た。血の気がないのが自分でもわかる。きっと青白い顔をしているんじゃなかろうか。
廊下を進み、階段を下る。
途中何度も立ち止まりながら、ようやく昇降口まで辿り着いた。
上履きをローファーに履き替えると外へ出る。日差しに打ちのめされながら数メートル。
「おぇ……っ」
お腹の中でなにか爆発したのではないかと錯覚するほどの突然の吐き気、衝撃。
我慢できずに校門近くの木の陰に手をついて嘔吐してしまう。
なにも考えられなくなってそのまま吐き続けていると、背後から「おい、大丈夫か!」と声が飛んできた。
肩で息をして、顔を上げるとそこには黒野くんがいた。
深刻な顔つきで私の背中に手を添える。
両眉を中央に寄せ、クールな印象の彼には似つかわしくないものだ。
「お前、なんかの病気か?」
「ちが……そんなんじゃないから」
切れ長の目が私を真っすぐに見据えている。その瞳を見ると、心がしぼむような感覚がするの、なんでだろう。
「歩けるか?」
「うん、もう大丈夫」
出すもの出したら幾らかましになった。
屈めていた上体を起こして、固まる表情筋を動かして笑ってみせた。
だけど目の前の黒野くんはどこか信用していないような眼差し。
「……家まで送る」
「いいよそんなことしなくて、用あるし」
「……彼氏?」
「聞いてたんじゃん」
黒野くんは黙ったまま視線を俯けた。
地面でも見ているのか、彼の目を見ている私とは目が合わなくなった。