純な、恋。そして、愛でした。
そっと息をこぼすように口角を上げて「じゃあさ、駅まで散歩しない?」と彼に申し出る。彼は顔を上げて頷いた。
並んで歩き出して、自販機の前を通りかかったときだ。
「なんかいる?」
「ああ、うん、水欲しいかも」
そう言うと彼が財を取りだしたのが見えたから私も慌ててかばんの中をまさぐった。
それでも素早く小銭を入れて購入してしまった彼が「ん」と水の入ったペットボトルを差し出すので「お金払う」と突っぱねた。
「いい。俺が買うついでだし」
「ありがとう……」
あまりにも拒否し続けるのも気が引けて、有り難く受け取ることにした。今度なにかお礼をしよう。
キャップを回して水分を口に含む。
冷えたそれが喉から中に流れ込んできた。
ぷはーと、どこぞのCMのように大袈裟に喉ごしをアピールすると鼻で笑われた。
「それで?」
「ん?」
「なんか事情があんだろ?」
歩きながら問われたことに「うん……」と歯切れの悪い返事をした。
「簡単に言えないこと?」
車道を車が風を起こしながら走り去っていく。靡く髪を耳にかけながら少しの間考えた。
それはたったの数秒だったかもしれないし、何十分間もだったかもしれない。
けれどとてつもなく長く、短い、絶対止まることのない時が、停止した瞬間だったのかもしれない。
「……妊娠してるって言ったら、どうする?」
なんで打ち明けようと思ったのかはわからなかった。楓にも言えなかったのに。でも、だけど、黒野くんにだって嫌われたくはないのだけど、それ以上に聞いて、受け止めて欲しいという気持ちが勝った。
黒野くんが立ち止まったものだから、私も倣って立ち止まった。
頭上の変わった形をしている雲が停止した時と共にゆっくりと動き出した。
「マジ?」
「まじだよ」
彼の黒真珠のような瞳がゆらゆら揺れたような気がした。
まばたきを数回繰り返し、彼がポケットに突っ込んでいた手を出した。
「産むのか?」
「わかんない。迷ってる」