純な、恋。そして、愛でした。
声は不思議と震えなかった。
心は、こんなにも震えているというのに。
「まだ高校生なのに、子どもを、そんなに簡単に産めるわけないよ……」
怖い。黒野くんの表情が、下に向いていて見えない。
「……んだよ、それ」
低く、ドスの聞いた黒野くんの声に乗って出た言葉。それまでかけられていた優しさを含んだ言い回しとは、控えめに言っても程遠いものだった。
「無責任なこと言ってんなよ、なんだよそれ」
「黒野くん……?」
「呼ぶな」
鋭く、きつい眼差しで私のことを見据えるその瞳はまるで、私を……――。
「俺、お前のこと心から軽蔑する」
まさしく軽蔑したような、普通のクラスメイトに送るそれとは逸脱したものだった。
冷酷な目線。狼狽えていると黒野くんは構うことなく先を歩いて行ってしまった。
待って、違う、違うの。――……なにが?
追いかけて、伸ばしかけた手と声を引っ込めた。
一体なにが違うというのだろう。私は他人からしたら軽蔑されて、蔑まれて当然の人間ではないか。
無責任に子どもができる行為をしておいて、実際にできたらどうしようなどと愚かにも悩んで苦しんでいるのだから世話ない。
このお腹の中にいる小さな命に、罪は一ミリもないのに私は産むことについて、決断できないでいる。
嫌われったって当然なのだ。それを危惧していて、友だちにも彼氏にも家族にも、誰にも相談できずにいたのに、告白して当たり前に傷ついてなんなんだお前は。自分勝手にもほどがある。
「……っ……」
でも正直、黒野くんに拒絶されてこんなに傷つくなんて予想外だったな。
前髪をくしゃりと握りしめて、震える唇を噛みしめた。頬を濡らす涙が風に煽られて冷たく感じた。
なんで私はこんなにも胸が張り裂けるような痛みを感じているの? なんで黒野くんがくれたあの優しさを、言葉を思い出している?
妊娠して、心が弱っているから? せっかく仲良くなれたのに拒絶されたから? 不器用で不愛想だけど、本当は目の奥は優しいことを知ったから?
……どれも正解っぽいのだけれど、いまいち的を得ていないような後味の悪さ。心の靄がより一層濃く、深くなる。
わからない、知らない、こんな感情。今までこんな気持ちになったことない。
赤の他人からの冷たい視線と言葉にこんなに傷つけられたことも、明日から話しかけてもらえないかもしれないと思うと悲しくなる気持ちも、あの綺麗な瞳に見つめられたいと、「おい」と一言でもいいから話しかけてもらいたい気持ちも。