純な、恋。そして、愛でした。
全部、知らない。きっと少し前の私だったらどうでもいいって、踵を返せていた。いや、違うな。少し前の私、というよりも、黒野くんじゃなかったら? いや、それも少し違う。
楓に「軽蔑する」と言われていても私はこんな風に傷ついたに違いない。
じゃあなんで黒野くんは私にとって、楓と、一番の友達と変わらないぐらいの存在になったのだろうか。
答えは見つからないまま、私はいつの間にやら彼氏の家に赴いていた。
細い道を抜け、ぼろいアパートが姿を現した。階段を上がり、チャイムを鳴らす。けれど扉が開くことはなかった。
スマホの中のアプリを開いて、既読になっていないか確認したけれど、読まれてすらいないらしい。仕方ない、覚悟していた通り待っていよう。
玄関前で膝を抱えて、それからどれくらいの時間が経ったのだろう。明るかった空が影を落とし、星が淀んだような色の空に存在感を放っていた。
腕に顔を埋めて視界をゼロにしていた私のもとへ階段のほうから足音が届く。
「ははは」
「ねえ、荷物置いたらDVD借りに行かない?」
聞き覚えのある、軽快な笑い声。
条件反射で顔を上げると、その声の人物とその人に甘えたように腕を絡ませている綺麗な女の人。二人姿を見て、言葉を失う。
「……っ……」
きっと目の前の彼も言葉を失っているのだろう、なんとも間抜けな表情で私のことを見ていた。
そうか、そういうこと。彼氏には他に女がいたってこと……。
横にいる彼女は首を傾げて私を見つめている。シルバーに近い色をした長い金髪は外巻きにばっちり巻かれてあり、派手なワンピースを着た目の前の女はなるほど彼氏が好きそうな容姿をしている。
私はおもむろに立ち上がった。
そして威嚇するように一歩だけ彼らに近づいた。
制服を着たJKの私は、ばっちりオシャレを決め込んだ大人な彼女の前ではどう見てもお子ちゃまそのものだろう。だけど怖気づきたくはなかった。弱弱しい態度でいることはとても癪だった。
「誰? この子」
「……従妹だよ。先入ってて」
彼氏が腕を絡ませていた女性に鍵を差し出しながらそう促して、彼女は怪訝な顔をしながら言われるがままに部屋の中へ入って行った。隣を通られるとき、香水のきつい匂いが鼻をツンと刺激した。
……私はいつからこの人の従妹になったというのだろう。
「志乃」
「……気安く触んないで」
腕を掴まれそうになって避けた。触られたくない。汚らわしい。
「ねえ私、妊娠してるんだよ……っ?」