純な、恋。そして、愛でした。
ゆっくり顔を上げた。真っすぐ黒野くんを見る。澄んだ黒色の瞳と目が合う。拒絶されてない、優しさの含まれたものだと気づく。
「私、産みたい。お腹の赤ちゃんに、会いたい……っ」
砂利のついた手でお腹に触れた。
これが本音だった。覚悟とか、方法とかそういうものじゃなく、何事にも代えられないのに後回しにしたのはそのシンプルな気持ちだった。
「わかった」
「黒野くん……?」
「さっきはごめん、俺、お前を軽蔑するって言ったけど、訂正する」
私の手をとると、倒れこんだときについた手の砂利をはらって、そのままその手を握る。
「ごめんな」
頭を撫でる手が、温かくて、優しい。
大声で泣くと大きな身体で抱きすくめられる。
背中を撫でる手が心に寄り添うように柔らかで安心する。
私は黒野くんに甘えるように抱き着き、その温度に溶け込んだ。
こんなに誰かの腕の中で泣いたのはいつ以来だろう。お父さんが亡くなったときも本当はこんな風に泣きたかったんだ私。でも泣けなかった。抱きしめてくれる腕が、なかったから……。
だけどこれで最後にするから。
不甲斐ない自分に泣くのはこれで最後にする。
私、強い母親になりたいから。
絶対会いたい。お腹の中の、赤ちゃんに。
ねえ、黒野くん。この気持ちは、なんて言うのだろうね。黒野くんに対するこの焦がれる気持ちも、赤ちゃんに対する、この温かい気持ちも。私は今までこんな満たされたような熱い想いになったことは一度もないよ。
もしかして、これが愛、なのかな。恋、なのかな。
わかんないや、私には、でも、そうであればいいなとは思うんだよ。
「足、擦り剥けてんな……」
少し距離を取り、黒野くんが私の膝に視線を落とした。
「ほんとだ。でも黒野くんが来てくれなかったら私死んじゃってたよ」
「そうだよ、バカ。お前今度死のうとしたら俺がぶっ殺す」
言葉の迫力とは裏腹に黒野くんの表情はどこか穏やかだ。
きっと他の人が見たら無表情に見えるそれでも私にはなんとなくわかる、気がする。
「どうせ死ぬんじゃん私」
「うるせえ」
「でも黒野くんにだったら殺されてもいいなあ」
「アホかお前は。ほら立て、行くぞ」
腕を引っ張り上げられて立ち上がる。乱れたスカートを直していると「家どこ?」と一言。