純な、恋。そして、愛でした。
「え、いいよ、ひとりで帰れるし」
「バカか」
「さっきからバカバカ言い過ぎだし‼」
「本当のことだろ?」
ふんと鼻で笑って私の手を取る。目を見開いて驚いた。
「……今は黙ってろよ」
「…………」
照れているのだろうか、彼の耳がほんのり赤くなっているのが街灯に照らされて見えた。
それに伝染するかのように私の体温も上昇して、彼がいる方とは反対側に目線をやり口元を手で覆い隠した。どこからか虫の囀りが聞こえてくる。
手なんていくらでもつないだことあるし、それ以上のことも、恋人とすることは一通り経験したことあるはずなのに、こんなのおかしいよね。
動悸が、おさまらない。なにかの拍子に間違って爆発してしまわないか心配になる。
「家、こっちだから……」
「ん……」
歩いていても、ぎこちない。なんなんだこれは。彼も黙ったままだし。
ねえ、黒野くん、やっぱりこれって……――。
「…………」
その先は……言われた通り、黙っていよう。
ふと見上げた星空はとても煌びやかで、乾いた目に綺麗に映る。風は優しく、ほのかに冷たい。
電車に乗ると、ふたりで並んで空いている席に座った。手は、繋いだままだった。夜の街並みが猛スピードで窓の外の景色を塗り替える。
「なんであんなところにいたの……?」
ようやく口を開けたのは私の方だった。
「ん? ああ、あそこに生産者こだわりの小麦が売ってあるんだ。ネットで見つけてさ、その小麦でケーキ作ったら美味いだろうなって思ってたんだけど」
「……もしかしてまだ買えてない?」
「まあ……でもいいよ、明日また出直すし」
「うぅ、ほんとごめん」
申し訳なくて頭が上がらない。でも彼はなんともない顔をして「気にすんな」と言った。なんて優しい人なのだろう。最初、気に食わないって思っていたことを全力で謝罪したくなる。
「それで、そっちはなんであそこに?」
聞かれた質問に、一度心臓が大きく跳ね上がると持続的に激しく動き続ける。
通常とは違うそれを誤魔化すように背もたれに寄りかかってみた。