純な、恋。そして、愛でした。
「彼氏に、会ってたんだ……」
「彼氏に?」
「うん、でも妊娠したって言ったらもう来るなって言われちゃった……」
「はあ? なんだよそれ……!」
「私に男の見る目がなかったってことかな」
「そんな問題かよ」
イラついたように黒野くんが語尾を強める。
「悲しくはないよ、いい加減だなって思うし、子どもできたのに認めようとしないから年上のくせに無責任だなってすごく思う。でもお腹の子のことを考えると縁切れてよかったのかもしれない。あんな人が父親だなんてこの子にとったらその方が不幸かなって。父親がいない寂しさは味合わせちゃうかもだけど、そんなの関係ないぐらいうんと……」
「……どうした?」
途中で言葉をやめた私の顔を黒野くんがのぞき込む。
「いや……」
言葉が詰まる。うまく言えない。
「私さ、誰かを好きになったことないんだよね。恋も、愛も、やりかたがわからないの。今、無意識に“愛してあげたい”って言いかけたけど、できるかなって」
父親がいないってこと、そんなの関係ないってぐらいうんと愛してあげたいと口から出ようとした。
だけど果たして私にそんなことできるのだろうか。恋も愛も、それらがなんなのかわからない私に。
「俺も、同じだよ」
「え?」
「俺さ、生まれてすぐ母親に捨てられたんだ。母親にとって俺は、望まれてできた子供じゃなかったんだよ」
瞳に水分を含ませた黒野くんに、なぜか私まで胸が痛んでしまった。
だからさっき望まれてない子が生まれたらその子は一生苦しむのだと言っていたのか。
あれは自分のことを指していたのかと今さら気づく。
「男で一つだったけど、親父に育てられた俺は確かに幸せだった。ばあちゃんと同じケーキ屋をしていた父のおかげで夢もできた。でも心のどこかで母親の存在を欲してたんだ俺」
「うん……」
「その父親も夏休みに亡くなった。片親の壁って、薄くないよ。子どもって頭いいから、親の前じゃ無理に笑う」
俺がそうしていたように。とは言わなかったけれど、黒野くんの言葉にはそんな続きがあったような気がした。
お父さんが亡くなったから、おばあちゃんの家に黒野くん住むことになったということか。