純な、恋。そして、愛でした。
第ニ章*尊重すべき、小さな、モノ。
母親になるってどういうことなのだろう。子どもを産んでしまえばもう私は母親なのだろうか。
それでただの高校生の少女から、親に、母に、大人に、なれるの?
この子を産むって決めたけれど、私は一体なにから始めればいいのだろう。
きっと私はなにもかもが足りない。
遊んでばかりいたから、一般的な教養も身についていない。
愛する気持ちも、恋する気持ちも、私にはないものだ。
だけどそれはもうすぐきっとわかる、近くにある、根拠はなくてもそう感じているんだ。
お腹の子と、それから彼のおかげで、なんとなく。
「まずお金だよなぁ……」
ひとりきりの部屋で呟いた。
手を広げて、ベッドに仰向けに寝そべっていた。音はない。かすかに外から車のエンジン音やご近所さんの生活音がするぐらい。それでも耳を澄ませないと聞こえてこない。
私にも一応貯金はある。お年玉を小さい頃から貯めていて、高校生になってからは単発のアルバイトを何個かやったし。
幾らか遊び代にも消えたけれど、大体は残っている。遊び代は男性陣が払ってくれていたし、お金についてそんなに困ったことはない。
……でもこれから子どもを育てるのにお金はいくらあっても足りなくなると思うから、働けるうちに働いて稼いでしまおう。
ちゃんとした親になりたい。漠然とだけど、そう思わされる。
どんな親が"ちゃんとしている"のか、定義はわかっていないのだけど、若い母親で人に後ろ指さされる人生だとしても、君だけは守ると誓う、そんな強い母親になりたい。
感情論しかない。手段が明確にあるわけじゃない。前途多難なのは間違いないけれど、迷いはない。
不思議だ。不安がなくなったわけじゃないけれど、色々先のことを考えていくうちにだんだん未来が待ち遠しくなってきたかもしれない。
まだまだ問題は山積みだし、解決しなければならないことは沢山あるのだけれど、お腹の子がどんな顔をしているのか、女の子か男の子か考えていると自然と心が喜び感情を露わす。
明日アルバイトを探して、本屋にも行こう。
やはり私は知識不足が否めないし、こういうのは本屋にある参考書を見るのが手っ取り早い気がする。
一通り計画を練ると部屋の電気を消した。再びベッドに横たわると、目を閉じる。
すると一階の玄関のほうで扉が開いて閉る音がした。母が帰って来たのだろう。ふとスマホの画面を点けると時刻は十一時をまわっていた。やはり帰りが遅いな。
なんと言っても一番の面倒なイベントは母に赤ちゃんを授かったと報告することだと思っている。
長らく真面目な話も、世間話すらしてこなかった親子なのに、いきなりこんな話題はハードルが高い。
それに一般常識的に考えても高校生の娘がいきなり妊娠しました、だから子供を産みます、なんて言い出したら母親は猛反対するのが一連の流れだ。
まあ、うちの母親がその常識の中にいるのなら、私は夜の繁華街に出歩いたりすることもなく、あんなおちゃらけた元彼と出会うこともなかったのだろうけど。
卑屈に傾いていく思考を故意にストップさせた。違う、母が理由で今のこの状況をつくりだしたのではない。あくまでもキッカケでしかない。
これは私が選んだ人生。私が自由に遊んで、その結果として子供を授かったんだ。私はもう産むって決めたんだし、逃げていても変わらない。
明日、ちゃんと話しをしよう。ちゃんと認めてもらおう。