純な、恋。そして、愛でした。
淡々と答えた。嘘はついていない。だから、その信じられないといったような顔は私としては納得がいかないのだが。
「でもなんでいきなり? 仲良くなったの?」
「理由なんて別に……席が近いからじゃない?」
席に座りながら適当に答えると楓はまだ釈然としていないようでぶつぶつなにかを言っている様子。
なんで黒野くんと仲良くなっただけでそんな反応をされるのだろう。
変わり者の一匹狼の黒野くんだから?
それとも……?
いろいろ連想ゲームのように想いを巡らせているとひとつ思い当たる節にぶつかった。
「あ、私彼氏とは昨日別れたよ?」
「はあ⁉ なんで⁉」
耳を劈く楓の声を、私は顔を顰めて衝撃を吸収する。
彼氏がいるのに他の男子と仲良くなるのがいけないってそういう理論なら問題はない。もう私に気を遣わないといけない存在はいないのだから。誰と登校しようが関係ないはず。
「いろいろあったの。あとで楓にはちゃんと話すから……」
ここでおおっぴろにするには信用できない人が多すぎる。
「まさか、黒野っちが理由じゃないよね?」
「違うよ」
心配症だったのか、楓は。友達になって一年半経つけれど、初めて知ったかもしれない。
妊娠のこと打ち明けたら楓はなんと言ってくれるのだろうか。今はもうそれが怖くない。
……ひとりじゃ、ないから。
一時間目の体育は適当に理由をつけて見学した。激しいバスケなんて赤子のことを考えるとやりたくない。ぶつかって転んででもして、赤ちゃんになにかあったら絶対に嫌だから。
床とシューズが擦れる高い音と、ボールをつく音が幾重にも重なっているのを呆然と聞いた。
二つに分けられた体育館を男女それぞれで使用し、授業は進められる。ステージ側のコートで試合を行っている男子の方を見た。
ちょうど黒野くんがチームメイトからパスを受け取っているところで、そのままその行方を目で追っていると黒野くんがドリブルで華麗に相手をかわしてシュートを決めた。
男子たちが有り余ったテンションのまま彼に駆け寄ってハイタッチを求めている。
それに真顔で応える黒野くんを見て私は笑ってしまう。
それにしても、黒野くんって運動神経いいんだ。
「なにニヤニヤしてんの~」
「か、楓⁉」
いつの間にそこにいたのか、楓が私の横に腰を降ろしていて、それこそニヤニヤしながら私のことを見ていた。
「今志乃、黒野っちのこと見てたでしょ」
「ち、違うし……! たまたまだし……‼」
「ほらやっぱ見てたんじゃん」
からかう気満々の楓に顔が熱くなる感覚がした。しかし先生に戻るように言われた楓は不服そうに唇を尖らせて渋々コートの方に行ったのだった。