純な、恋。そして、愛でした。


「母親が俺の事捨てたときから俺、愛とか恋とか、信じられなくなったんだ。でもお前と出会って変わった。この意味、わかる?」 

「わかんない」


もとい、わかりたくない。
自分に都合の良いように受け取ってしまうから。


私だって、そうだ。愛とか恋とか、知らなかった。心が凍った、冷めた自分には縁遠いものだと思っていた。


でも今は……違う。私はそのどちらも知った。


「お前が、好きだってこと」


息を飲んだ。風が止んだ気がした。……違う、髪は揺れている。じゃあなんだと言うんだ。

たぶん世界が制止した。そうだ、時間だ。時が止まった気がしたんだ。
今、この瞬間。私の世界が足を止めた。


でも私は笑みを口元に表して時間を進めた。


「……ダメだよ」

「なんで?」

「なんでって、決まってんじゃん、そんなの」


息を吸う。そして吐いた。


「……この子が、いるんだもん」


お腹に手を当てた。大切な、私の赤ちゃん。小さな、尊重すべき命の灯(ともしび)。
この子は黒野くんの子じゃない。それはとても重要なこと。


“愛”ってすごく難しいんだ。私は知っている。だって実の親子でも迷う時がある。真っすぐ愛せなくなる瞬間がある。


いがみ合ったり、嫌いだとそっぽを向いたり、真っすぐ向き合っていられなくなる。


だけど乗り越えられることも、私は知っている。愛があれば幾度すれ違ったとしても、通じ合うことができる。


だけど、それは“本当の親子”だからだ。本物の親子でも愛しあい続けるのは至難の業なのに、そんなの、無理だよ……。


「わかってる、それでも俺はお前のことも、お腹の子のことも……」

「わかってないよ、全然わかってない。お互いにまだ高校生だよ? 黒野くんの気持ちは長い人生の中で見たら、ほんの一瞬の、気の、迷いかもしれない。いつか私を好きになったこと、絶対後悔する」

「……そんなちっぽけなものじゃない」

「いや、絶対嫌になる。気持ち、なくなって後悔する。黒野くんには幸せになってもらいたい。好きな人とちゃんと恋愛をして結婚して、その後に家族をつくったほうが絶対……」

「俺の幸せ勝手に決めんな」



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