純な、恋。そして、愛でした。
私がそんなことを考えたから、死んでしまったんじゃないかって、自分を呪ってしまいたい。
「志乃が泣き止むまでそばにいるから」
「……泣き止んだら、そばにいてくれないの?」
「ごめん、違う。ずっとそばにいるから」
黒野くんの右手が私の頭を自分の胸に引き寄せる。彼の心臓の音が聞こえる。髪の上を滑るように撫でられ、私は目を閉じた。
ごめんなさい。黒野くんを試すようなことを言った。意地悪な言い方だった。
それなのに私の右手と彼の左手は繋がれたままでいる。
皮膚が固く、夢を追いかけている黒野くんのこの手が私はすごく好き。
この安心感に甘えちゃってていいのだろうか。赤ちゃんは私のお腹の中で亡くなった。
物凄く、苦しい思いをさせたかもしれないのに、私だけこんな居心地のいいところにいてもいいの?
どうやって罪滅ぼしをしたらいいのかわからない。物凄く大事な命を失った。何物にも代えがたい命でした。
悲しみが心を覆い尽くして、どうやって笑っていたのかわからない。
未来に夢を見過ぎていたのかな。期待し過ぎていた。
どれくらいの時間そうしていたのかわからない。黒野くんは私を励ますことをやめなかった。
頭を撫で続けて、時には背中をさすってくれたり。優しくて、いい彼氏過ぎて、私にはもったいないのではないかと思った。
「黒野くん、ありがとう」
「なにか飲む?」
「うん」
そこで初めて繋いでいた手を離した。
黒野くんが部屋を出る。一人になってうんと静かになる。
もともと騒がしくはなかったのだけど、私の嗚咽と鼻水を啜る音、それから黒野くんの鼓動や静かな息遣いがないだけで、こんなにも寂しく静かになる。
泣きすぎて力尽きた私はベッドに横たわる。シーツから黒野くんのいい匂いがする。安心する匂い。
そのまま瞼を閉じると吸い込まれるかのように睡眠の世界に落ちた。
夢は、見なかった。
「……の、志乃……」
「んん……?」
名前を呼ばれて目が覚めた。乾いた瞳が水分を求めてまばたきを繰り返す。黒野くんが私の前髪に軽く触れながら「やっと起きた」とはにかんだ。
電気がついた部屋。窓の外はすっかり日が落ちて夜になっていた。