純な、恋。そして、愛でした。
は、はあ? 今、なんて言ったのこいつ。
「それどういう……っ」
どういった意味なのか、聞こうと思ったのに、黒野陽介は私の言葉を最後まで聞くことなく行ってしまった。まったくなんてやつだ。
私がすっぴんでいて、いつもと違うから、誰かわからなかったっていう嫌味のつもり?
なんて性格の悪い男なんだろう。冗談だとしても、相当ギャグセンスのない発言だったと思う。
だいたいそんなに話したことないのに、いきなり失礼じゃないだろうか? 仮にも女子にかける言葉じゃない。
まあ、黒野陽介が変人、というのは周知されていることだけれど。転校して来て四日、彼がまともに誰かと会話している姿を誰も見ていない。
だって、あれはいただけなかった。
「ねえ、黒野くんって彼女いるの?」
「どこから引っ越してきたの?」
「学校案内してあげようか?」
時は遡ること四日前、彼が引っ越してきた日。ホームルームが終わったあと、みんな、主に女子だが、寄ってたかって黒野陽介のことを囲むように質問攻めにした。
前の席である私はそれをうざったく思いながら知らん顔をして、同じく彼に興味を持たなかったらしい楓と適当に駄弁っていたのだけど。
――ガタタッ。
突然、椅子と床が擦れる、激しい音が教室に響いた。
後ろを向くと予想通り彼が無表情で立ち上がっていて、騒がしくしていたギャラリーが一斉に押し黙る。
そしてなにか言うのかと思えば、その逆に黙ったまま教室を出た。呆気にとられる教室。あの男はこのしけた空気を一体どうするつもりなのだろうか。
「なに、今の」
「なんか……感じ悪くない?」
「怖いんだけど」
「今のはさすがにないよね」
人気者だったのは一瞬だけだったというわけだ。そのあと彼は無口の一匹狼の変人として一目置かれる存在となった。
いくらビジュアルが良くたって、あんな態度をとられちゃ好感度なんて無くなるに決まっている。
むしろ、先ほどの出来事で私の中の好感度はマイナスに大きく傾いた。
席に座ると足と手を横柄に組む。感情を表に出さないと、やってられない。
「はぁ……」
ため息、これで今日何回目だろう。未来が見えてこない。もともと見えていたわけではないけれど、お先真っ暗とはこのこと。
一体どうしたらいいんだろうか。産んだって、きっと満足に育てられない。お金もないし、母親になる覚悟だってできない。