純な、恋。そして、愛でした。
意図がまるでわからない。なにを企んでいるのだろうこの人。
「……いる」
だけど、なんだろう。ほんの少し、少しだけど、緊張していた心が綻ぶような感覚がした。
「なんでお前いつも何も食べないの?ダイエット?」
「別に……理由なんてないし」
「じゃあなんでいつも具合悪そうなわけ?」
「……そんなの、関係ないでしょ、あんたに」
なんでそんなことを聞いてくるんだろう。
なんでそんなにも質問攻めにしてくるの?
いつもは無口な一匹狼のくせに。
「じゃあ……」
「……?」
「なんで今、泣いてるんだよ?」
「……っ……」
泣いてなんかいない。そう言おうとしたのに、自分の頬を流れた涙の存在に気づいて言うのをやめた。嘘だ、こんなの。こんなムカつくやつの前でなんか泣きたくないのに、なんで、こんな。
せき止めていたものが崩壊したように、目から溢れるしずくは止まらない。ふき取っても、何度目もとを擦っても、止める術が見つからない。自分のことなのにコントロールがまるでできない。
考える頭と心が繋がっていないみたい。
意地でも泣くつもりなんかなかったというのに。
「わり、俺、なにも考えずに聞きすぎたな」
「いや……ちがくて……っ」
「悪い」
言葉とは裏腹に泣きじゃくる私に向かって彼が大きな手を伸ばし、涙をすくった。
思わず見上げて彼の目を真っ直ぐ見ると、あまりに綺麗な瞳に釘づけになる。
なんなんだ、この状況は。
なんで私、こんな素性の知れない転校生に、こんなことされて……。
「っ、もう、いいから」
手で彼の優しさをはらう。
気まずい空気が流れて、居たたまれなくなった私らかばんを机の横からはぎ取って教室を出ようとした。
「あ、なあ、忘れもの」
その声に反応して振り向くと彼が投げてよこしたのは、苺ミルク。
受け取ると手の中のそれを見て、お礼も言わずに踵を返すように廊下を急ぎ足で進んだ。
いろんな感情が入り乱れて、とても平常心ではいられなかった。
ムカつくのに、イライラするのに、どこか嬉しい。泣いているところを見られて恥ずかしいのに、安心している自分がいる。
正反対の感情ばかりが心の中で混じり合ってよくわからないことになっている。ついにはあいつの声ってあんな優しい響きだったかとか、彼が転校してきた時のことを思い出そうとしていた。
自分がまったくわからなかった。
けれど、涙はぴたりと止まっていた。