副社長はウブな秘書を可愛がりたくてたまらない
「ふ、副社長!? お、降りてください……!」

 温かな重さがある膝を硬直させて、両手をバタつかせた。

 しかし彼はそんな私のことなどお構い無しな様子で、長い睫毛を伏せてそっと瞳を閉じる。

「副社長……?」

 再び呼びかけるけれど、彼はゆるりと口角を上げるだけで、なにも言わない。

 彼の濡れた髪が膝を濡らし、静かな呼吸が聞こえるたびに恥ずかしさは増していった。

 嘘、副社長、寝ちゃった……?

 目を瞬かせながら見つめるけれどどうすることも出来なくて、私は仕事を早める鼓動に戸惑いながら唇を結んだ。

 髪が濡れてるのに、このままだと風邪引いちゃうよね……。

 頭を落とさないようにうんと手を伸ばして彼の膝の上にあったタオルを手に取ると、恐る恐る彼の髪に触れる。

 滴る水滴を拭うように拭いていくけれど、やはり彼は全く動かなかった。

 いつもはちゃんと乾かして出てくるのに。今日はどうしたんだろう?

 前髪に触れようとした途端、私の手はピタリと止まった。
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