副社長はウブな秘書を可愛がりたくてたまらない
 空中で私の手を掴む、彼の力強い手。

 思わず身体を跳ねさせると、彼は徐に瞼を上げた。

「副社長? 起きましたか? 眠いならちゃんと頭を拭いてベッドで寝ないと、風邪引きますよ」

 眉を下げながら顔を覗き込むと、彼の黒目はすぐに私を捉える。

 思っていたよりも近い距離に踏み込んでいたことに気付き顔を上げようとした途端、力強い腕に手を引かれて、私の頭はすぐに元の位置に戻された。

 そして優しく伸びてきた腕に頭を包まれるように引き寄せられた先に訪れたのは、――唇に触れる熱い感触。

 一瞬身体を硬直させた私は、その正体に気付いて暴れてみせるけれど、唇は離れることなく私を求める。

 一度離れてようやく解放されたと思うけれど、彼はすぐに啄(ついば)むように何度も私に甘い熱を降らせた。

 その度に小さく身体が跳ねて、髪の筋を辿るように滑らされる彼の手に、頭がジン、と痺れたように意識が遠くなっていく。

 次第になにも考えられなくなって、私は彼のシャツの胸元を握り締めた。
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