副社長はウブな秘書を可愛がりたくてたまらない
「明日奈」

 どれぐらい経ったのだろうか。

 吐息混じりに私の名前を呼ぶ声がして、ゆっくりと目を開けた。

 すると鼻先が触れ合う距離でこちらを見つめて揺れる瞳は、このまま私を溶かしてしまいそうなほど熱を帯びている。

 頭に添えられていた手が離れるのに、私は囚われたように動けないでいた。

「明日奈。今日、一緒に寝ようか」

 身体を起こした彼が、恍惚の表情で甘く囁く。

 ゾクリと背中に電気が走り、私は激しく高ぶってくる熱に一瞬目眩がした。

「む、無理です……!」

 途方もない恥ずかしさに顔を歪めるけれど、彼は私の頬を優しく両手で包み込む。

「離れ難いんだ。朝まで、この手に抱き締めていたい」

 苦しそうに愛しさを溢れ出させた表情に、私は心から一筋の熱い思いが流れ出るのを感じた。

 そんなに苦しそうな顔をするなんて、ズルいよ……。

 固く目を瞑り、唇を強く噛み締める。けれど全身を覆う痛いほどに高鳴る鼓動を改めて思い知る私は、熱で震える唇をそっと開いた。

「――……今日だけ、なら」

 消え入りそうな声で呟くと、彼は勢い良く私を抱き上げる。
 
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