副社長はウブな秘書を可愛がりたくてたまらない
「明日奈。こっち向いて」

 何度目か、淡い声が降ってきて、私は観念して手のひらを開く。

 恐る恐る目を開けると、目の前にあると思っていた彼の姿はない。

 あれ……?

 思わず目を瞬かせていると、クスリと小さく笑みを零す声が聞こえてきた。

「こっちだ」

 声を辿ると、彼は私のすぐ隣に寝転がっていて、優しく目尻を垂らしてこちらを見つめている。

「明日奈。大丈夫だから、おいで」

 囁く彼は、そっと両手を広げた。

 恥ずかしくて身体を丸めるようにして目を伏せるけれど、彼は強引に私を抱き寄せる。

 そしてそっと抱き締めると、安堵したように小さく息を漏らした。

「安心しろ。俺は、明日奈を怖がらせるようなことはしないから」

 そう呟いた彼に頭を撫でられて、私は魔法にかかったかのようにほっと安堵の胸を撫で下ろす。

 遠慮がちに彼の胸元に額を寄せると、そこからは忙しなく打ち続ける彼の鼓動が流れてきた。

 副社長も、ドキドキしてるんだ……。

 途端に全身が痺れるように擽ったくなるけれど、私は彼の腕の中でそっと瞼を閉じて、ひたすらその音を聞き続けた。
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