副社長はウブな秘書を可愛がりたくてたまらない
「失礼致します。副社長、お待たせ致しました」

 ノックをして副社長室へと入ると、彼は机にもたれかかり電話をしていた。

 こちらに気付いた彼と視線が絡み合うと、彼はメガネの奥の目をふっと細めて薄笑みを浮かべる。

 私は一瞬ドキリと胸を高鳴らせながらも、邪魔をしないようにと書類を彼の机の上に置いて奥の秘書室へと向かった。

 三浦さんとランチすること、副社長に話した方がいいのかな……?

 ドアを背に悩んでいると、突如背中に衝撃が走り、私は前のめりに吹っ飛ばされる。

「イ、イタタタ……」

 痛む膝を摩りながら振り返ると、そこには驚いた表情で私に駆け寄る彼の姿があった。

「明日奈!? ごめん、大丈夫か?」

 抱き寄せられるように私を起き上がらせた彼は、心配そうにこちらを覗き込む。

「あ、ありがとうございます。ぼーっとしていて、すみませんでした」

 慌ててプリーツスカートの裾を正して彼から離れると、深く頭を下げた。

 すると彼は掛けていたメガネを外して、スーツの胸ポケットに入れる。
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