副社長はウブな秘書を可愛がりたくてたまらない
「仕事がひと段落ついたから、今日はお昼外でゆっくり食べようか?」

 淡い声で呟いた彼は、小首を傾げた。

 つい胸がざわめくのを感じるけれど、私はすぐに先ほどの出来事を思い返す。

「すみません、今日は先約が……」

 言葉を濁らせると、そっと彼を見上げた。

「そう、残念だ。ゆっくり行っておいで」

 優しく微笑む彼は、ポン、といつものように私の頭を撫でる。

 まだなんの話かわからないし、言わない方がいいよね……?

 罪悪感から顔を歪ませると、彼は一瞬訝しげな表情を浮かべた。

「明日奈?」

「は、はい! ありがとうございます。ではお先に失礼致します」

 深々と頭を下げると、足早に副社長室を出る。

 危なかった……。あのまま彼に見つめられていたら、考えていることを見透かされてしまいそうな気がした。

 ドアの外で深く息をつくと、私は重い足取りで社員食堂に向かった。
< 139 / 196 >

この作品をシェア

pagetop