副社長はウブな秘書を可愛がりたくてたまらない
「お、お待たせしました……」

 息が上がる私は、呼吸を整えながらようやく見つけた暗めの茶髪の後ろ姿に声を掛ける。

 五百席もある広々とした社員食堂から彼の姿を探すのは至難の業で、おかげで食事をしている人たちから何度か不審な目を向けられ、すっかり疲れてしまった。

 しかし彼はそんなことなどつゆ知らず、掛けていた椅子から立ち上がりニコリと不敵な笑みを浮かべる。

「あ、探してくれた? ごめんね、これでもわかりやすい場所に座ったつもりだったんだけど。そうだ、望月さんはなに食べる?」

 彼がいた六人掛けのテーブルには、クリームソーダが一つ置いてあった。

 クリームソーダ? 三浦さんは、もうお昼食べたのかな?

「あ、まだなにも考えてなくて。ちょっと買ってきます」

 販売カウンターに向かおうと背を向けると、彼はすぐに私を呼び止めた。

「俺もまだだから、一緒に」

 何度か目を瞬かせた私は、戸惑いながらもコクン、と頷いた。
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