副社長はウブな秘書を可愛がりたくてたまらない
 大手食品会社だけありメニューにもとても力を入れている社員食堂は、いつ来ても大盛況だ。

 特にランチタイムには一般開放も行っていて、社員以外の人も多く訪れている。

 自社の宣伝にも繋がると社長自ら提案したと聞いたことがあるけれど、実際ここを解放してから自社製品の売上も上がったのだから、大成功だと言えるだろう。

 私は人が多い場所が苦手で数回しか来たことはなかったのだけれど、去年の夏にここで食べた野菜がたっぷりの冷やし胡麻坦々うどんは、ほっぺたが落ちるんじゃないかと思えるほど美味しかった。

「今日のオススメは、ハニーバターチキンカレーだって。俺、これにしようかな。でもこっちの半熟卵のせタコライスも美味しそう……! 悩むなぁ。望月さんはどうする?」

 トレーを持って列に並ぶ彼は、メニューボードを真剣な表情で見つめている。

 せっかく来たのだけれど、私は正直このあとの話が気になっていて今は目の前のメニューなど全く頭に入ってこなかった。
< 141 / 196 >

この作品をシェア

pagetop