副社長はウブな秘書を可愛がりたくてたまらない
「構うものか。それよりお前、俺の秘書に余計なことを吹き込んでいないだろうな?」

 再び額に青筋を立てた彼は依然落ち着いた口調のまま、三浦さんに鋭い視線を送った。

「お前来るのが早すぎるから、まだ吹き込む前だよ。それよりよくここがわかったな。望月さんから俺とここに来ることは聞いてなかったんだろ? お前まさか、望月さんにGPSでも付けてるのか?」

 以前どこかで感じたことある疑問に、私は思わず苦い笑みを零す。

「……馬鹿言うな。ったく、人事部はこんなことを思いつくほどひまなのか? それなら仕事はいくらでもあるんだぞ」

 彼が睨みをきかせて告げるけれど、三浦さんには全くこたえていないようだ。

 それどころか、今にも噴き出しそうに顔を膨らませている。

「じゃあ今度、家に招待してくれよ。そのときゆっくりと話を聞かせてもらうことにする。そしたらもうお前の〝秘書〟にはちょっかい出さないよ」

 秘書の部分をやたらと強調した三浦さんは、口角を綺麗に上げて無敵な笑顔を浮かべた。

 この人、副社長より上手かもしれない……。

 副社長も大きくため息をつくけれど、わかった、と小さく観念したような声を上げた。
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