副社長はウブな秘書を可愛がりたくてたまらない
「副社長、あの、怒ってますか?」

 食堂を出てエレベーターに乗った私は、隣で未だ険しい表情を浮かべている副社長を見上げる。

 あのあと彼は、行くぞ、とすぐに私の手を掴んだのだけれど、『まだご飯残ってるよ? 仮にも食品会社の副社長が、そんな勿体無いことさせないよね?』とニッコリと笑う三浦さんを見て、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながらも渋々席についた。

 さすが幼なじみだけあって、三浦さんは相当副社長の扱いに慣れているみたい。こんな彼は、初めて見た。

 そのあと諦めたように彼も食堂で食事をしていたけれど、状況をまるで知らない社員たちは驚きの表情でこちらを見つめていた。

「……別に、怒ってない」

「でも、眉間にシワが寄ってますよ?」

 私は自分の額を指さすと、彼は困ったようにゆるりと表情を緩める。

「本当に怒ってない。でも……」

 突如彼が身体ごとこちらを向いて、覆いかぶさるように私を壁際に追い詰めた。

 ……え、な、なに!?
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