副社長はウブな秘書を可愛がりたくてたまらない
 慌てて逃げるように後ろへ下がるけれど、私はすぐに壁に背をつける。気付くと頭の横には彼の肘があって、私は簡単に閉じ込められた。
 
 そして目の前に迫る彼の息をつくほど妖艶な表情に、思わず大きく胸が跳ねる。

「明日奈は隙が多すぎる。俺以外の男に、そんなに簡単についていくな」

 怒っているはずなのに、彼はまるで懇願するように甘く囁いた。

 私はジン、と頭が痺れて、すぐに溢れ出る羞恥心に顔を歪ませる。

「隙なんてなくなるように、今すぐ俺で埋め尽くしてしまえたらいいのに」

 鼻先が軽く触れ合って、彼の片方の腕が強く私の腰を引き寄せると、私は簡単に彼の熱に飲み込まれてしまいそうになった。

 彼の唇が、私の唇に重なろうとしたそのとき――。

 ポーン、と高い音が響き、私たちを乗せていたエレベーターが目的を果たして止まる。

 その音で我に返った私は、急激に熱が上る頬を隠すように顔を覆った。

 ここが会社だってことを忘れてしまいそうになるなんて……!

 彼はそんな私の顔を見て、満足気な笑みを零した。
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