副社長はウブな秘書を可愛がりたくてたまらない
「失礼致しました。私は、織田の秘書をしております望月と申します。……あの、本日は織田と面会でしょうか?」

 今日の午後は、予定はなにもなかったはずだ。そしてこの人は、一体どうやってここに入ってきたのだろう……。

 遠慮がちに視線を流すと、彼女は両方の口角を綺麗に上げて微笑みを浮かべた。

 その百合の花にも似た清らかな彼女の美しさに、思わずゴクリと息を呑む。

「秘書の方だったんですね。すみません、約束はしてないんです。ただちょっと話があって」

 彼女は机の上にあった彼のメガネを手に取ると、それを明かりにかざして、まるで遠くを見るように恍惚の表情を浮かべた。

 するとそのとき、私は背後のドアが開いた音を聞き、そこに現れた副社長を見て心の糸が緩んだように小さく息をつく。

 一瞬視線が絡み合うけれど、私たち以外の気配を感じて視線を流した彼はその目を大きく見開いた。

「…………み、美穂子(みほこ)?」

 不意打ちにあったように顔に驚愕の色を見せる彼は、顔を強ばらせ何度も目を瞬かせている。
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