副社長はウブな秘書を可愛がりたくてたまらない
 鼻の奥がツン、と痛み、目の縁から涙が染み出てくる。

 堪えようと思えば思うほど、その感情は、しまい込んでいた蓋(ふた)を弾き飛ばして涙とともに溢れ出た。

 ――私、副社長のことが好きだ。

 見ないふりをしていた想いに向き合った途端、それは激しい熱となって私の胸を切なく締め付ける。

 愛しくて、愛しくて、涙が止まらなくて、こんな感情は初めてだ。

 そして彼の言葉を聞く勇気がないのも、きっとこの表現出来ない愛おしさの意味を知ってしまったから。

 ドア越しにいる彼に今すぐこの想いを伝えたら、一体どんな顔をするのだろう。

 私を見つめ悲しげに瞳を揺らした彼の姿を思い出して、こんこんと溢れ出る涙で視界が歪んでいった。

 恋をするということが、人を好きになるということが、こんなにも痛いなんて。

 大人になって知ったこの痛みは私の胸を抉(えぐ)って、熱となってぽたぽたと膝に落ちた。
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