副社長はウブな秘書を可愛がりたくてたまらない
「今日その人が副社長に会いに会社に来てて、その人に聞いたの。アメリカから帰ってきたら、結婚するって約束してたって……」

 尻すぼみになる声は、彼女に届いただろうか。不安に思い俯いていた顔を上げると、彼女は先ほどとは打って変わって片方だけの眉を吊り上げながら不満そうに顔を歪めていた。

 そして持っていたマグカップをガン、とテーブルに強く叩きつけた彼女は、テーブルに手をついて前のめりに私を覗き込む。

 思わず仰け反るように姿勢を崩して床に手をつくけれど、彼女はそんな私のことなど気にもせずにさらに眉間のシワを深くさせた。

「副社長は、なんて言ってるの?」

 行動とは裏腹に思いの外冷静に言い放つ彼女。

 私が絡み合っていた視線を逸らして唇を噛み締めると、彼女は私の答えをわかりきっているかのように「明日奈?」と語調を強めた。

「副社長と、ちゃんと話してないの?」

 悲痛に顔を歪ませながら徐に頷くと、彼女は呆気に取られたように大きく息をつく。
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