副社長はウブな秘書を可愛がりたくてたまらない
「本人の口から聞いたわけじゃないんでしょ? それならちゃんと話して、副社長本人の気持ちを確認しないとわからないんじゃない?」

「そう、なんだけど……」

 消え入りそうな声で答えると、私は震える両手を握り締めて瞼を強く閉じた。

 確かに、副社長本人の口から聞いたわけじゃない。私が今日まで彼から貰ったのは、どれも甘く、優しい言葉ばかりだ。

 でも美穂子さんの言ったことが本当なら? 彼が私に話そうとしていることが、そのことだったら?

 ――彼に、全てが嘘だったと告げられたら?

 そう思うだけで、ナイフで胸が貫かれたような苦しさが迫った。

「なにを言われるか、怖いの。私、副社長のこと……」

 いつの間に、こんなに好きになっていたのだろう。

 思わず目頭が熱くなるのを堪えると、彼女は再び長い息を吐いて私の隣にやって来た。

 そして私の肩を軽くポン、と叩いた彼女は、優しげに小さく笑みを零す。
< 166 / 196 >

この作品をシェア

pagetop