副社長はウブな秘書を可愛がりたくてたまらない
「怖くていいのよ。怖くていい。それでもその恐怖から目を背けて逃げてしまったら、本物の愛は得られないのよ? 泣いてもいい。情けなく取り乱してもいい。でもどれだけ気持ちの整理に時間がかかっても、自分の想いに気付いたなら逃げちゃダメ」

 子供を宥めるように囁いた彼女は、言い終えると私の頭を乱雑に撫でた。

 私がついに瞳から熱の雫を溢れさせると、彼女は豪快に笑いながら頭を抱き寄せてくれる。

「恋愛初心者の明日奈さん、いつまでここにいてもいいから、ちゃんと自分の気持ちに向き合いなさい。そして覚悟が出来たら、会いに行けばいいのよ。どうせ恋愛は、一人では答えが出せないんだから」

 彼女の言葉に、この胸の痛みと苦しみが少しずつ涙とともに流れていく気がした。

 情けなくても、取り乱してもいい。それが恋をすることだということすら、今日まで知らなかった。

「ありがとう、真希……」

 きっと涙でグシャグシャになっている顔を上げて薄笑みを浮かべると、彼女も安堵したように唇を綻ばせる。

 彼女がいてくれて、本当に良かった。
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