副社長はウブな秘書を可愛がりたくてたまらない
　すると彼女は、迷うことなく通話ボタンを押した。

　私が驚きの声を上げるけれど、彼女は構うことなく携帯電話を耳に当てて話を始める。

「もしもし、榎原です。明日奈はうちにいるので安心してください。今は落ち着く時間が必要だと思ったので、このままうちに泊めます」

　淡々とそう告げる彼女を見つめ、いてもたってもいられない私は両膝を抱えた。

　彼から見えていないとわかっているのに、今すぐ隠れてしまいたいほどに落ち着かない。

「あと、部外者の私がこんなこと言うのもおかしいと思ってるんですけど、それを承知で一つだけ。大切だと思ってるなら、明日奈のこと泣かせないでください。じゃあ……」

　彼女はそう言うと、電話を切ってしまった。

　電話の向こうの彼がなんて言っていたのかは私にはわからないけれど、彼女はなにも言わない。

　「はい」と差し出された携帯電話を受け取ると、それが先ほどまで彼と繋がっていたと思うだけで胸が焦がれるのだから、本当に私はどうしようもないと思った。
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