副社長はウブな秘書を可愛がりたくてたまらない

　彼女と視線がぶつかり、私は大きく息を呑んだ。
　……誰、だろう。

「待ってて」

　部屋の入口にあるモニターを覗き込んだ彼女は、一瞬私に視線を流すと、目の前のそれに視線を戻して大袈裟に息をついた。

　緊張が走り呼吸が浅くなった私は、その表情をただじっと見つめる。

「予想はしてたけど、やっぱり来たか……」

　独り言のように呟いた彼女は、困ったように、しかし安心したように顔を綻ばせていて、モニターの通話ボタンを押すことなく私を手招いた。

　恐る恐る駆け寄ると、モニターに映っていたのは、――副社長だった。

　彼の姿を見た途端、私は切なさに胸が突き上げられて、溢れるような愛おしさに包まれる。

「行くよ」

　そんな私の手を引く彼女は、そのまま玄関向かってドアを開けた。

　現れた彼は、少し濡れた髪を乱し、私の姿を見た瞬間、勢い良くドアをこじ開けるようにこちらに迫る。

「明日奈……！」

　その一切の余裕もない表情に、私は胸を激しく高鳴らせた。