副社長はウブな秘書を可愛がりたくてたまらない
「副社長。私電話で、明日奈のこと泊めるって言いましたよね？」

　腕を組んで呆れたような口調でそう言った彼女は、彼を真っ直ぐに見据える。　

「……明日奈が泣いてるって、言っただろ？」

　呼吸を整えながら話す彼は、私を見つめて薄笑みを浮かべた。

　ついに私は堪えきれずに、涙をぽろぽろと溢れさせる。

　すると力強い力に腕を引かれて、私は壊れてしまいそうなほど強く抱き締められた。

「勝手にどこへ行くんだ。俺から離れるなんて、絶対に許さない。俺の知らない場所で泣くな」

　耳元で囁かれて、私は涙を止めることが出来ずに彼のジャケットの胸元をギュッと掴む。

　微かに雨の匂いがして、跳ねるような鼓動の音が流れ込んできた。それが私のものか、彼のものなのか、私にはわからない。

　ただ例えこのあとなにがあったとしても、私は今なによりもこの熱を求めていたのだと嫌でも実感させられた。

「副社長……」

　何度も呟くと、彼はそれに応えるようにさらに強く私を抱き締めてくれる。

　止まらない涙は、彼のジャケットをより濡らしていった。
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