副社長はウブな秘書を可愛がりたくてたまらない
「また困った顔してる。でも俺、君の困った顔が好きみたいだ。だから今、俺のせいでもっと困ればいいと思ってる」

 甘く囁かれた言葉に、胸が一際大きく跳ねた。

 彼は言葉とは裏腹に、慈しむように優しく目を細めてこちらを見つめる。

 そして頬からストン、と落ちた彼の手は、力が入って伸びていた私の手を絡め取った。

 熱く、力強い手のひらからは、すぐに熱が伝わってくる。

「あ、あの!」

 緊張と熱が繋がれた手のひらから伝わってしまいそうで、なんとか絞り出した私の上ずった声は、静かな路地に大きく響いた。

 しかし彼は落ち着いた様子で「ん?」と小首を傾げながら、私の言葉を待っている。

 先ほどからずっと考えているけれど、なにが起きているのか到底理解が追いつかない。

 合コンに行って、彼に助けてもらって、そして――。

 私の意識を呼び戻すように、彼はイタズラに手のひらにギュッと力を込めた。

 それだけで、私の思考回路はまたも簡単に止められてしまう。

 困っている。困っているのに、強引にこの手を振り解けないのは、どうしてなのだろう。
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