副社長はウブな秘書を可愛がりたくてたまらない
「行こうか」

 彼に手を引かれて、重たくなっていた足を再び前へと運んだ。

 傘に跳ね返る雨粒の音が、先ほどよりも少し強くなってきたような気がする。

 落ち着きなく加速し続ける鼓動がすぐ隣にいる彼に聞こえてしまうのではないかと心配で、降り続く雨音にひたすら安堵を覚えた。

 私たちがいた店から、タクシー乗り場までは歩いて五分ほど。

 それだけの短い時間でも、私にとってはとてつもなく長い時間に感じられた。

「乗って」

 連ねて停められたタクシーのヘッドライトを見て、私は胸を撫で下ろす。

 彼は開いたタクシーのドアに手を添えると、私が濡れないようにドアの上で傘を差してくれていた。

 彼が濡れてしまわないように、慌てて乗り込む。そして彼もすぐに隣に乗り込んできた。

「行き先は?」

「あ、〇〇区……の一の五までお願いします」

 ふっと一息ついた彼を横目に、恐る恐る運転手さんに家の住所を告げる。

 すると彼の眉が、ピクリと大きく動いた。
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