副社長はウブな秘書を可愛がりたくてたまらない
 このままでは遅刻してしまう、となんとか宥(なだ)めた彼女と別れ、早足でマーケティング部のオフィスに向かった私は深呼吸をしながら全面すりガラスのドアを押し開けた。

 新商品開発に関わる解析済みの顧客データ、今日中にまとめてしまわないとな。

 気持ちを切り替えて、気合を入れる。

「おはようございます」

「おぉ、来たか望月! お前今すぐ俺と一緒に第一会議室に来い!」

 入るや否や、私を待ち構えていた様子の垣内部長が血相を変えてこちらに駆け寄ってきた。

 いつも怒っているとき以外は口数が少ない部長の珍しいほどに落ち着かない表情に、私はカバンも置かないままに反射的に「はい」と首を縦に振る。

 一体何事!? 会議室って、まさか朝から大変なトラブルでもあったのかな?

 オフィス内のみんなも手は動かしてはいるけれどその目は興味津々といった様子で、きっと誰も作業に身は入っていなさそうだ。
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