副社長はウブな秘書を可愛がりたくてたまらない
「誰が担当に選ばれるのかしら。もう一週間前なのに、まだなんの辞令もないわよね」

 うちの秘書室が美人や可愛い子揃いだということは社外でも有名だと、前に真希が言っていた。

 そういえば後輩の牧田(まきた)さんも、『うちの秘書室はブランドに近いんです! うちに入社するなら、やっぱり秘書室は憧れですよぉ』なんて熱弁していたっけ。

 そんな憧れの的の彼女たちがここまで夢中で話の種にするなんて、相手はどんな素敵な社員なんだろう。

 でも、誰かが秘書が付くようなポジションに異動する辞令なんて出てたかな?

 私は心の中で小首を傾げながらも、彼女たちの隣でできるだけ気配を消して手を洗っていた。

「明日奈ー! 早くしないと、間に合わないよ?」

 トイレの外で待っていた真希が、腕時計を見せながらひょっこりと顔を出す。

 その声に、今までこちらを向く気配もなかった秘書室の女性たちの視線が一斉に私に注がれた。
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