副社長はウブな秘書を可愛がりたくてたまらない
「あの、部長……。なにがあったんですか?」

 エレベーターで第一会議室のある十階に移動している間も、一言も口を開かなかった部長。

 堪らず恐る恐る声をかけると、彼はその場に足を止めて勢い良く振り返った。

「俺にもわからん。ただ専務が朝一内線で、お前を連れて第一会議室に来いとだけ」

 荒くなった呼吸を、必死で落ち着かせようとしている彼。

 想像もしていなかった答えに、私も思わず目を見開いた。

「せ、専務がですか!?」

「そうだ。お前、一体なにかやらかしたのか?」

 元々細身な彼は強烈な気苦労のせいか、いつもよりゲッソリとやつれているように見える。専務がそれほど深刻そうな声をしていたということだろうか?

 当の本人の私も、途端に襲ってくる緊張から全身に力が入った。

 真っ白の扉にぶら下がる、『第一会議室』と書かれたプレートを見つめた彼は、一呼吸つくとゆっくりと扉を三回をノックする。

 「どうぞ」と声が返ってくると、一瞬私に視線を流した彼は「失礼します!」と力強い声と共に扉を押し開けた。
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