副社長はウブな秘書を可愛がりたくてたまらない
「か、からかわないでください! この前もお話しましたが、私本当にこういう経験ないんです……」

 痛いほどに熱くなっている顔を見られたくなくて項垂れると、彼は私の頬をそっと撫でた。

「からかってる? まさか。俺の言葉で次々に変わる表情を全部手に入れたいと思っているぐらいに君が好きなんだ」

 強引な言葉とは裏腹に私の手を握る彼の手は温かくて、それが私の胸を強く締め付ける。

 副社長、本気なの……?

 頬に触れる手に誘われるように顔を上げると、彼は真っ直ぐにこちらを見つめていた。

 その慈しむような温かな眼差しに、早くなった鼓動が身体中に響く。

「わ、私が、副社長を好きにならなかったら……本当に解放してくれるんですか?」

 彼の目を見られなくて、私は自分の足元を見ながら呟いた。
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