副社長はウブな秘書を可愛がりたくてたまらない
 昨日の夕食のお礼に朝食の用意をしておこうかとも思ったのだけれど、勝手に冷蔵庫やキッチンを触るわけにもいかなくて、諦めてダンボール箱の中身を片付けていたのだけれど……。

「こんなところで、どうした?」

 小首を傾げる彼。まだ整髪料の付けられていない髪が、その顔にふわりと垂れている。

 初めて見る無防備な姿に、思わず胸が高鳴った。

 当たり前だけれど、彼にもこんな時間があるんだよね。仕事中の彼はかっちりとしたスーツ姿なのもあってどこか隙がないように見えていたから、あまりにも雰囲気が違って見えて……どこか不思議な気分だ。

「す、すみません。あの、洗面所をお借りしました」

「許可なんか取らなくても、この家にあるものはなんでも好きに使って構わない。今ここは、君の家でもあるんだから」

 掬った髪を片方の耳に掛けた彼は、目尻を垂らして微笑みを浮かべる。

 現れた綺麗な二重の目に捉えられると、一瞬時が止まったように頭が痺れた。

 ……見つめられただけでこんなに心を乱されて、三ヶ月も一緒にいられるのだろうか?
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