副社長はウブな秘書を可愛がりたくてたまらない
 すると空いた腕を垂らして俯いたままの彼の肩は、小刻みに揺れている。

 ……あれ?

 不思議に思い小首を傾げると、彼から小さく漏れ出す笑い声を聞いて、私はわなわなと身体を震わせた。

「副社長! からかったんですね!?」

 私が声を上げると、彼は堪えきれなくなったのか、天真爛漫に大口を開けて笑い始める。

「笑ってごめん。あまりにも明日奈が可愛いから」

 彼は目尻を掬うようにして、笑みを噛み殺しながら呟いた。

 込み上げてくる羞恥心で唇をキツく結んでいた私は、ジロリと彼を見上げる。

「私が流せないのをわかっててそんなこと言うなんて……ズルいです」

 すると彼は膝に手を付き、私に目線を合わせて屈んだ。

「男はズルい生き物なんだ。でも、可愛いと思ってるのは本当。朝から顔を見られたから、浮かれてるのかも」

 ふっと口角を上げる彼。私はなにも言えず、洗面所に向かう彼の姿を横目で見つめる。

 この人は、本当にズルい人だ。
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