副社長はウブな秘書を可愛がりたくてたまらない
「お待たせ」

 マグカップを二つ持ってやって来た彼から、お礼を言ってその一つを受け取った。

 カップから豊かでコクのある香りが鼻腔を擽り、一気に食欲が刺激される。

「じゃあ食べようか。いただきます」

 顔の前で両手を合わせた彼に続いて、私も手を合わせた。

 彼は熱そうに眉を寄せてコーヒーを一口飲むと、すぐにスクランブルエッグに手を伸ばす。

 私は食事をしながら、不安気にその様子を見つめていた。

「美味しい。人の手料理を食べたのは、久しぶりだ」

 顔を綻ばせた彼を見て、思わず笑みが零れる。しかしハッと意識を覚醒させた私は、意を決して口を開いた。

「あの、副社長!」

「ん?」

「一晩考えたんですが……やはり秘書と一緒に住んでいるというのは、問題なんじゃないでしょうか? もし発覚したりしたら、副社長にも色々と――」

 そっとフォークを置いた彼と視線が絡み合い、言葉は徐々に尻すぼみになる。
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