副社長はウブな秘書を可愛がりたくてたまらない
「ご、ごめん……」

 そのすごい剣幕に、思わず目を剥きながら謝ってしまった。

 この力強い瞳に詰め寄られたら、きっとその冷血ぶりから鬼だと言われているマーケティング部の垣内(かきうち)部長でさえも、怯んでしまうんじゃないだろうか。

 いつもそう思うけれど、彼女はマーケティング部ではなく、男性の多い営業部でトップクラスの営業成績を収めるエース。

 実現することがないのが残念だ。

「五年前からアメリカにある支社で経営学とマーケティングを勉強してたっていうあの副社長が、ついに本社に帰ってくるってすごい噂になってるのよ!」

 〝あの〟の部分をとにかく強調する彼女は、人差し指を立てた右手で何度も空を切った。

 あぁ、なるほど。あの、副社長か。
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