副社長はウブな秘書を可愛がりたくてたまらない
 彼の垂れた髪がふわりと頬を撫で、離れると、すぐに飛び込んできたのは息を呑むほどに美しく薄笑みを浮かべる彼の顔だった。

 ……今、なにが起きたの?

 瞬きも忘れて目の前の彼をただ見つめる私は、真っ白になった頭よりも先に、一気に熱が溢れていく身体に状況を理解させられる。

 これって、まさか……!

 途端に羞恥心で小刻みに震える身体は、今にも溶けてしまいそうなほど熱を増していった。

「な、……なにするんですか!?」

 絞り出した声は震えていて、彼は口元に手を当ててクスリと小さく笑う。

「自分を信じてあげられるようになる魔法だ」

 優しく囁く彼は、私の額をサラリと撫でた。

 そしてようやく自分がまだ彼の膝の上にいることに気がついた私は、跳ね上がるように起き上がる。

「魔法って、どうしてキ、キスする必要があるんですか!」

 人一人分の距離を開けながら身構えると、彼は垂れた髪を掻き上げながらこちらに視線を流した。

「前にも言っただろ? 男は、ズルい生き物なんだ」

 その淡い声と浮かべられた妖艶な笑みに、思わずぞくっと身震いする。

 わかってはいたけれど、嫌というほど思い知らされた。

 ……彼には、適いそうにない。
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