ストレイキャットの微笑



 私の目の色が変わったのが分かったのか、彼は手帳を仕舞いながら目を細めて笑った。


「もちろん店には通うし、欲しいものはできる限りで買ってあげる」

「……お店には来てほしいけど、物は要りません。換金するの面倒だからそのままください」


 なんだか心の内を見透かされているようで悔しくて、にっこり笑みを浮かべてそう言ってやると、何がおかしいのか、橘さんは声をあげて笑った。


「サキちゃんさあ、なんでそんな可愛い顔して金の亡者なの」

「お金だけは、絶対に私に嘘を吐かないから」


 彼からの問いに即答する。だってお金は誠実だ。日本の景気がとんでもないことにならない限り、その価値が保証されている。お金だけは、絶対に私に手のひらを返すことはない。


 だから、信じているのはお金だけだ。


 この先もお金以外、信じるつもりはない。お店の嬢たちも、幹部たちも、客も、そして目の前にいるこの男も。私は誰ひとりとして信じない。


 夜の世界で生きると決めてから、誰かを信じることは諦めた。



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