ストレイキャットの微笑
01
「はあ……うっざ」
客から届いたメールを読んで、思わず本音が溜め息に乗ってしまった。店に来ても大してお金を使わないくせに、何がデートだ。これで下心を隠しているつもりなのか。店外目的なのが丸分かり。
どうしてもと口説くなら、せめてドンペリでも入れてからにしてほしい。生憎、ただの客としか思っていない相手――しかも細客と、プライベートの時間を割いてまでデートするような優しさは持ち合わせていない。
「サキちゃん」
どう返すのがベストなのか、いっそのこと切ってしまおうかと悩んでいると、深い紺色のスーツを品良く着こなした男性が控えめに声をかけてきた。本日の同伴相手、伊藤さんだ。
先ほどまでメールの相手へ向いていた心を、ぱっと伊藤さんへ切り換える。伊藤さんと会えるのは素直に嬉しいから、作らなくても表情に笑みが滲んだ。
「お仕事お疲れ様です」
「待たせちゃってごめんね」
いいえ、と首を振って、彼の腕にそっと自身の手を添えた。他愛ない言葉をいくつか交わしながら、私たちは夜の街へと歩き出す。