天使と悪魔の子
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ーガチャ
家の扉が開く音がした。
宙が帰ってきたのだ。
リビングに入ってきた瞬間、彼は異変に気付き口を開いた。
「そこにいるんでしょ。」
『……見つかっちゃった?』
私は透明化の魔法を解いて首を傾げる。
香水で匂いは消した筈なんだけど…。
「気配がするんだ。」
『ふぅん』
驚かせたかったのにな、と私の声色が主張する。
「どうしてこんな時間まで?」
『宙が会ってくれないから。』
食い下がるものかと目を見つめた。
『……』
「……」
長い沈黙だった。
『ココア飲む?』
いつか宙がしてくれたように私も提案してみる。
無論、ここは彼の家なのだが。
「うん」
彼がどれだけ気丈に振舞っても、何となく理解していた。
彼は人一倍臆病なのだ。
そして私同様に頑固でもある。
一度話さないと決めたことは死ぬまで言わないつもりだ。
ーコトッ
『どうぞ』
「ありがとう」
彼の大きく、繊細な指がカップに触れた瞬間、私は首を傾けた。
『宙が何者でも、命を預けるよ。
でもこれだけは約束して欲しいんだ。
“自分を犠牲にしない”って。』
これは彼にとってとても難しいことだと思う。
何故か私の為に自分を犠牲にすることで、存在価値を見出している。
そんな気がした。
『もしそんなことをしたら、宙がその時受けた傷の分、私が魔法で受けるから。』
「……」
宙は動揺しているのか瞳を揺らした。
『どうしてそんな話をしてるかって顔してる。』
私はしてやったり、と笑った。
『宙が喋らないなら、
私は私がしたいようにする。』
「…うん」
『これは命令よ。』
あなたと私の自由の為の契約だ。
「俺は喋らない。なにがあっても、きっと一生話すことがないと思う。」
それは一生、私達の間には一枚の壁があるということ。
『記憶を取り戻す。』
「…喋れとは命令しないんだね。」
『そんなことしても、意味がないからね。』
これはふたりの闘いだ。
言うか言わないか
守るか死ぬか
『どっちに転ぶかな。』
そういいながら、宙の決意に充ちた目を見ていた。