天使と悪魔の子
「んんっ……」
小さく唸って目を開く。
私は体を起こして周りを見た。
森みたいな少し気味の悪い場所。
黒い木々の間から見えるのは流星が飛び交う幻想的な赤黒い空。
その空にはとてつもなく大きな紅い月が見えた。
手を伸ばせば届きそうな、それほど大きな月。
「リリイ」
聞き覚えのある声に振り返ると黒い猫が私の前にいた。
『エル?』
「うん、どうやらあいつらとは少し離れた場所に飛ばされてしまったらしいね。」
『……うそ』
「俺達はこの世界からすれば異質だからね。追放されたリュークと昇天使となったアラン、そして神の孫のリリイ。魔界からの拒絶反応って考えると妥当だよ。それか玲夜ってやつの仕業だね。
あいつらの術式は一切間違ってなかったし。」
名前を再び確認するようにエルが呟いた。
今すべきことはなによりもまず、宙達を見つけること。
『エル、リューク達の居場所はわかる?』
「俺は君の使い魔だよ。なんだってできるさ。」
エルはついてこいと言わんばかりに尻尾をふる。
こんなに頼りがいのある使い魔がいてよかったと心底思った。
でも使い魔って、いつから?
「リリイ、念の為あの香水つけておきなよ。」
『あ、そうだね。』
私は慌ててポケットから取り出して香水をつけた。
香水というより無臭剤って感じだけど。
「うん、匂いはもう大丈夫。くれぐれも怪我をしないように。」
いつもより張り詰めた態度のエルに、私にもそれが伝わる。
そんなに危険な場所なのか。
ーナーニシテルノォ ナーニシテルノォ
木々がケラケラと笑いだした。
それはとても奇妙で、普通の女の子なら倒れてしまいそうなほど恐ろしい光景だ。
でも人型じゃないってことは、力は弱いはず。
『少し散歩をしていたのだけれど、どうすればこの森から出れるのかしら。』
ーココハ迷イノ森 ダシテアゲナイヨ
『へぇ』
私は悪魔っぽく笑ってそのまま表情を崩さず手から炎を出した。
ーヒ、ヒダ ヤダヤダヤダヤダ
……チョロいな
私は黒いヤツらに手を翳す。
『ねぇ、あんたたち、燃やして欲しいんだったらそう言いなさい?アハハハハ!!』
ーイヤダアア
木々は私を避けて道を作る。
それを見て満足気に笑った。
我ながら迫真の演技だ。
エルは少しぽかんとしていたが、やがて笑った。
「リリイ本当に君は面白いね。」
『私もそう思うわ。』
魔界へ来てなんとなく自分の魔力が強まっていくのを感じる。
本来はこういう世界に身を置くものだからか?
私はとりあえず開いた道を駆けた。
早く宙達と合流しないと……!